映画『グローリー』

「グローリー」は、マルチン・ルーサー・キング牧師を描いた映画です。非暴力運動で、黒人の公民権を勝ち取ったキング牧師とその仲間たちを描いています。1965年ノーベル平和賞を受賞し、アラバマ州セルマを拠点にした運動を始めるところから映画は始まっています。当時のFBIが盗聴した電話の記録に基づいて、映画は構成されています。自由と民主主義の国アメリカという表向きのイメージとは正反対の暴力と差別の実態が描かれます。アラバマ州セルマでは、黒人と白人の割合は50%づつ。しかし、有権者に黒人は2%しかいません。黒人が選挙権を行使するには、有権者登録をしなければならず、有権者登録のためには、一定の所得と白人の推薦人が必要でした。また、登録時に警官からあれこれ質問をされ、それに答えられないと有権者登録は却下されます。しかも有権者登録をした後、新聞に名前と住所が公開されるために、人種差別主義者たちの標的となって襲撃されるなど、不利益なことが起こるのです。このように選挙権がないために、黒人たちは自分たちの意見を反映させることができない。キング牧師たちは、これを変えよう、とするのです。アメリカの憲法の下、すべての人は平等であり、なん人も肌の色や性別、宗教の違いで差別されない、この権利を貫こうとするのです。当時の大統領であったジョンソンに、何度もキング牧師は訴えかけます。憲法で保障されている「平等」に違反している、という点をついて、キング牧師は、大統領を動かして法律をかえさせ、州や地方に任されていた選挙権を黒人にも付与することを実現させたのです。しかし、その背景には、非暴力の行進の際に、警官や軍隊に殴られ、蹴散らされ、時には殺される人々が続出したのです。死の恐怖や不安にも覚えながら、それでも、決して行進をやめない、暴力には非暴力で抵抗する勇気ある人々が、グローリー(栄光)を勝ち取ったのです。現在、日本の首相が自らの解釈によって憲法を破って平然としています。憲法は権力者をこそ縛る国の根幹であることを、この映画で改めて教えられました。立憲主義に立つことの大切さを今こそ覚えたいと思いました。最後に流れる讃美歌「グローリー」が圧巻でした。