まぶね日誌:映画「人生フルーツ」を見て

7月のオープン・カフェではお昼から『人生フルーツ』を観ました。建築家の津端修一さん(90歳)と英子さん(87歳)の生活を撮ったドキュメンタリー映画です。ナレーターの樹木希林がくり返し語るナレーション「風が吹けば、枯れ葉が落ちる。枯れ葉が落ちれば土が肥える。土が肥えれば果実が実る。ゆっくり、こつこつ。」名古屋のベッドタウン高蔵寺ニュータウンを設計した津端さん。地形を生かして、丘の尾根の形に添って建物を設計。建物の間にも雑木林を植えて風と緑を感じられる団地を構想しましたが、これはすべて却下されてしまいました。効率を優先し、均等に陽が当たって少しでも多くの人が住む住宅にするために、南向きに箱型の建物を建てるという計画になってしまったのです。

津端さんがすごいのは、そこから。早めに定年退職した津端さん夫妻は、高蔵寺ニュータウンの隣に300坪の更地を買って、家を建てて、雑木林を育て、畑を耕し、自分たちの理想の生活実験を始めて30年。豊かな実りをもたらす様々な果樹、梅、さくらんぼ、くるみ、すももが実り、畑で作った野菜で食卓を彩る。そして、小鳥たちのための水飲み場も用意、夫婦仲良く、畑仕事に、保存食作りと協力し合って生活を営んでいました。「ゆっくり こつこつ」の生活が、なんと穏やかで豊かなこと。雑木林の光と影。吹き渡る風のさわやかさ。自然との交流がどれだけ人の暮らしを豊かにしてくれるのかを、感じさせてくれました。英子さんは、月に一回名古屋に出て、お魚、お肉など自分たちでは手に入らない食材を仕入れにいき、配達してもらっています。年金をやりくりしながらの生活ですけれど、必要な食材を冷凍保存し、整理して使いまわしています。津端さんは、毎日、友人たちに自分たちの日常生活をイラスト入りのハガキを書いています。自転車にのってハガキをポストに出しに行く修一さんの身の軽いこと。

ある日、修一さんは、草むしりをして昼寝をした後、起きてきませんでした。けれど、そのお顔は今にも起きだしてきそうな穏やかな優しい顔をしていました。「ゆっくり こつこつ」の生活が、地上での別れ時にこのような尊厳を人にもたらすのだな、と思いました。修一さんは、最後に佐賀・伊万里市にある精神病棟の設計の仕事を引き受けました。心を病んだ人のリハビリとなるような環境を、というコンセプトで、コンクリートではなく木の建物、雑木林、ホッとできる空間をと庭の中にベンチも点在しています。わたしたちは何を残せるのかー津端さん夫妻は言葉にならない豊かな暮らしを私たちに示してくれました。人としての幸せをこんな風に人に手渡すことができたら最高です。