No.115<K・デュルクハイムの村>



【ゲスト・ハウスの居間でのお茶の時間】 
さて、ドイツの休暇のお話しを続けます。北のハンブルグからカッセル、ちょうど真ん中のベブラから、さらに南のフライブルグ。そこからさらに1時間のリュッテという村を訪ねるのが、今回の旅行の大きな目的でもありました。昨年から講義で取り上げているカールフリート・デュルクハイムという心理療法家が、伴侶であるマリア・ヒピウスと共に作り上げた共同体がそこにはあります。そこでは様々なセラピー(心理療法)を受けることが出来、又、セラピスト養成のコースも開かれています。黒い森の豊かな自然の中にある村の中に、その建物が点在しています。昨年友人を訪ねた時、偶然この村に案内してもらい、デュルクハイムの仕事を知り、興味をもって調べるうちに、実に面白い仕事をした人であることがわかりました。戦前、外交官として日本に来ている時に、坐禅や弓道、お茶など日本文化を習得し、特に坐禅を早い時期から心理療法に取り入れて、大きな成果をあげた人です。『肚―人間の重心』というのが、彼の主著なのですが、日本の身体文化の中の「ハラ」を鍛え修行することによって、心身が整えられ、本質と結びつく力を獲得することを、ドイツ人らしく実に丁寧に分析しています。ナショナリズムと結びついた日本文化礼讃は考えものですが、かつての日本文化を体験しそれを懇切丁寧に分析しているデュルクハイムの著作は、本当に興味深いものでした。実際、彼はドイツでどのような実践をしているのだろう、とリュッテの村を訪ねてみたくなったのです。

 村の中心のゲスト・ハウスに泊めてもらいましたが、伝統的な黒い森のがっしりとした木の家で窓が小さいために、内部はとても暗いのです。そのためか人間の内奥の洞窟に入ってゆくような不思議な感覚を覚えました。ゲストは40代から70代の方が7,8人比較的年長者が多かったです。オリエンテーションで「ゲスト同士であまり余計なおしゃべりはしないでくださいね。たとえば夢の話などはセラピストにしてください。」と言われ、きめ細かい配慮だなあと思いました。他のゲストは何らかのセラピーに参加していましたが、私は自由にすごさせてもらいました。村の中心には、チャペルといつでも瞑想をできる坐禅堂があり、年に2回、臨済宗の僧侶が来て、接心(集中的に坐禅をする期間)を開いているそうです。美しい夏の花々の庭とおいしいオーガニック料理にも大満足でした。自分自身を真摯に見つめ鍛錬できる出会いの場所が、50年以上の歴史をもって営まれて来たことに、ドイツ文化の豊かさを感じました。